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ミラノ・サローネ報告
 「共存-カラフル」を発信 進むインテリアのカジュアル化 
<繊研新聞2003年5月号掲載>
.............................................................................................................................................................................................御手洗 照子

キーワードは「カラフル」。色使いはもちろん、そこには人種、思想など異なる考え方が共存している---というクリエーターたちの無言のメッセージが込められている。
家具見本市「サローネ・デル・モービレ(以下サローネ)」が4月、イタリアのミラノで開かれた。
今や家具にとどまらず、テーブルウエア、小物などデザインされた空間提案のイベントとして知られ、世界的なデザイン志向の流れを受けて、インテリア業界にとどまらず、雑貨、繊維、ファッション業界からもその動向が注目されている。
隔年でキッチンウエア、照明見本市が併催されるが、今年は照明見本市「ユーロルーチェ」が同時開催となり、バス関連、ハウスリネンの2部門が新設された。
今回のサローネの特色とデザイン傾向をリポートする。

有力デザイナーも全力投入

[ボーダレス]..............................................................................................................................................................................................
ミラノのデザイン界は、アート、インテリア、ファッションなどが互いに影響し合いながら発展してきた。アルマーニをはじめとして、ミッソーニ、フェンディ、エトロ、ベルサーチなど、多くのデザイナーブランドがインテリアにも進出している。

アルマーニカーサは、リゾートのしつらえの中でシンプルなアウトドアの家具=写真(1)、ミッソーニは中庭に造られたサンルームのようなガラス張りのショールームでカラフルなマルチストライプと花柄のソファ=写真(2)、名品「サッコ」をミッソーニらしく絣模様でくるんだものなどを発表した。

エトロはカラフルなペーズリー柄=写真(3)=を展開、プラダはプラダインスティテュートで近年発表してきたコンテンポラリーアートの展覧会を開催した。
世界的照明デザイナー、インゴマウラーは、発光ダイオードを使った宇宙的なテーブル=写真(4)=や、フォンタナを思わせるペンダントライトなど、詩的でインパクトのあるデザインを発表した。ほとんどコンテンポラリーアートといってよい。


 

 

「オーガニックな造形」.........................................................................................................................................................................
自然の造形物を思わせるオーガニックな造形はここ数年来のトレンドだ。
小物類など、「メゾン・エ・オブジェ」「メッセ・フランクフルト」などの見本市でも主流をなしていたが、今回のサローネでも、樹脂を素材にしたカラフルな色使い、大きな有機的な形が特徴のいす、ソファ、照明などが多く出展されていた。斜めにカッティングされたようなデザイン、ロッキングのようにゆらゆらと揺れるものも目立った。
一方で、ファッションブランドのトレンドと連動した、カジュアルでカラフルな商品提案も目立った。

フィリップ・スタルクが旧作のいすに花模様のファブリックスをあしらった新作=写真(5)=を発表したほか、シンプルなスチールなどの骨組みにカラフルなファブリックスのクッションやシートを組み合わせたり、オーソドックスなデザインに、マルチカラーストライプや大胆な色の花柄のファブリックスを組み合わせて、現代的なソファ=写真(6)=を提案したものもあった。空間提案も同系色のグラデーション、柄違いなど、華やかにポップに見せている。
シンプルなモノトーンの提案も目立ったが、これらを無彩色として表現するのではなく、一つの主張する色として使っている。洋服地を思わせる千鳥格子のソファ=写真(7)、ヘリンボーンなどの張り地、幾何学模様も多く見られた。










[日本勢の活躍]
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日本人デザイナーの活躍も目立った。ドリアデの新作は、昨年に続き吉岡徳人のオーガニックな形状のスツール、エドラは伊藤節の切り株を思わせるいす=写真(8)、ミラノ随一のセレクトショップ、コルソコモのギャラリーでは、倉俣史郎の回顧展が開かれた。喜多俊之も旭川家具、有田焼とコラボレートした作品や三菱重工と取り組んだロボットを発表した。




良品計画は今回初めて「ワールドムジ」をコンセプトに、約500平方メートルの倉庫を借り切り、エンゾ・マーリの家具、アズミの食器=写真(9)=を中心に展示会を開き、多くの入場者を集めた。
サローネの新人登竜門「サテリテ」では、日本人のデザイナー集団「ポリサイト」をはじめ十数組の日本人が出展した。
[文化の発信]...........................................................................................................................................................................................
サローネの開催に合わせて、ミラノ市内でもさまざまな展示会が開かれる。その多くは、夜にはパーティー会場となりデザイナーと訪問客との交流の場となる。
若者たちが自由に集うにぎやかな会場もあれば、招待客だけというサロン的なものもある。今回印象に残った前者の代表が、カッペリーニ。道まであふれた若者、ロックバンドの喧騒、ネットで仕切られた空間には歴代の代表作がポップな表現で配されていた。
後者ではドリアデ。中世的な回廊を配した伽藍という歴史的な雰囲気の会場で、吉岡徳人のインスタレーション、ミストの中に配置される60年代から現代までの代表的な家具は、伝統と革新の融合を感じさせた。
そこでは、フィリップ・スタルクもエンゾ・マーリも、話しかければ気軽に答えてくれる。
イタリア発のスローフード、スローライフが話題となっているがサローネもイタリアらしい。スローな魅力を持った展示会である。
近年、会場で商品を売買するというよりは、イタリア発の文化の発信基地としての意味合いが大きくなっているようだ。
今年のサローネは折りしもイラク戦争の真っ只中での開催だった。ミラノの街に出ると、平和を意味する「PACE」と書かれた虹色の旗が、あちこちの建物の窓に下げられていた。
分野を問わず、「共存-カラフル」という世界の流れ。サローネに出展したデザイナーたちは、見事にその考え方を表現してくれた。 <みたらい てるこ>



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