T-pot

ティーポット
“御用達型”百貨店の提案 <商店建築2003年10月号掲載>
.............................................................................................................................................................................................御手洗 照子


「魅力が無くなる悪循環」

百貨店の売り上げの下降線に歯止めがかからない。各店とも知恵を絞り、さまざまな対応策を繰り出している。食品からファッション、インテリアまで、めぼしいブランドの争奪戦、プライベートブランドの開発、少しでも買いやすい売場への編成変え、よりきめの細かい接客サービス、などなど。次々と、リフレッシュも盛んである。それでも売り上げが上向かない。
人件費を削り、坪効率を求めた結果、場所貸し的な売り場が多くなり、各店の個性が薄れ、魅力が無くなるという悪循環である。世の中のさまざまな枠組みが新しく組み直されようとしている今という時代だからこそ、対応策ではない抜本的な見直し、そしてもう一度初心に返り、今の時代における百貨店のレゾンデートルを再認識して考えることが必要だと思われる。

「生活の中のさまざまな問題解決ステーション」

百貨店からやや離れた立場で問題を見てみると、岡目八目、百貨店から次々と打ち出される新しい提案は、顧客指向と言いながら、いつも百貨店サイドの見方から一歩も出ていないと感じる。従来の百貨店という枠組みの中でのマイナーチェンジでしかないのだ。必要とあらば、無理と思われることにも挑戦するという意識こそ、従来の枠組みから出て再生する道であるということは、今の日本の他のすべての状況と同じであるに違いない。
街角のコンビニに行けば、普段着、サンダル履きで身近な用事は大体済んでしまう。軽食を始めとする、簡単な買い物はもとより、銀行、郵便局、宅配、チケットサービス、コピー。スーパー、量販店で食料、日用品、軽衣料がまかなわれ、ショッピングモール、専門店に出かけて、ファッショナブルな買い物をする。これだけ選択肢が増えた中で、家から身支度をし交通費を使って、あるいは、会社帰りやそぞろ歩きの途中によりやすいショッピングモールや専門店にはない、百貨店を選ぶ理由を見つけなければならない。
かつて、百貨店は老若男女に夢を売る場所であった。それも大事なことであるが、今の時代、より明確な存在理由がいるのである。この、モノの売れない時代に、一人元気なコンビニの存在にヒントがあると思う。多分、答えの一つは、コンビニが日常の小さな用事の解決ステーションであるように、百貨店が生活の中のさまざまな問題解決ステーションとなることだと思う。

「専門度が高く深く話し合える相談相手」

暮らしの中で起こるさまざまな必要を、思いつくままに上げてみても、結婚、出産、新居、教育、増改築、病気、介護、スポーツ、趣味などにまつわる膨大なモノとソフト。人生で初めて出合うことも多く、身近に相談相手がいないこともある。そんな時、頼りになるのが百貨店である。ここでコンビニと大いに異なるのは、人がキーになるということである。暮らしの中で何か必要が生じた時、あの百貨店のあの人に相談に乗ってもらおうという相手の顔が、浮かばなければならない。専門度が高く、深く話し合える、フェーストゥーフェースの関係。客の立場で言えば、そんな顔の見える相談相手が、各階に一人いてくれると助かる。新しいシーズンの洋服や靴を選びに行けば、こちらの好きな色柄、サイズ、体型も心得た気心の知れた相手が、トレンドを取り入れながら売場横断的に、コーディネーションの相談に乗ってくれる。信頼の置けるお抱えのコーディネーターを持っているようなものである。招待客の相談に行けば、料理、食器から花のあしらい方までアドバイスをもらえる。ギフトなら、TPO、相手の好みまで取り入れてリコメンドしてもらうという具合だ。従来の外商やお買い物相談係よりはずっと専門度が高く、各売り場のベテラン販売員よりはもっと顧客寄りで、売り場横断的である。そんな新しい立場の、いわば、店の水先案内人、顧客にとっては、専属コーディネーターのような人が必要とされているのではないだろうか。
そうなると売り場も変わってくる。顧客の立場に立ってさまざまな御用を承る、新しい意味での“御用達型”百貨店の誕生である。ファッション、インテリア、コスメ、食品など、それぞれの売り場がコーディネーション、エステ、料理や栄養などのソフトと、がっちり連携したものとなる。モノの満ち足りている時代には、本当に必要なものだけが欲しい。いわば、ソフトに裏打ちされたハードが欲しいのだ。そこではまた、ソフトの部分は決してハードの付録ではなく、それ自体が魅力的な商品となる。
客側の意識で言えば、小さなケの用事はコンビニ、大きなそしてややハレの用事は百貨店で解決というわけである。これでもう、モノを探して、疲労困憊することも無く、用事が終われば、余裕を持ってハレ空間としての百貨店を楽しむことができるというものである。 <みたらい てるこ>



Copyright (C) 2003 T-pot Co., Ltd. All right reserved.