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マスマーケティングの終焉 オンリーワン現象 <商店建築2003年6月号掲載>
.............................................................................................................................................................................................御手洗 照子


「みんな違ってみんないい」

どうやら、2003年のキーワードの一つはオンリーワンということのようだ。年初からスマップの"世界に一つだけの花"が大ヒット。しかもかなりのロングセラーである。中島みゆきの"地上の星"などの例もあるようにロングセラーになる曲というのはその時代の背景を色濃く映し出しているものが多い。


ナンバーワンにならなくてもいい
もともと特別なオンリーワン(中略)
そうさ僕等は世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい


この場合のたった一つの花は、金子みすずの"みんな違ってみんないい"のながれで個性の尊重、ひいては個性の共存がメーンテーマである。
そして、4月25日オープンの六本木ヒルズ、ここのテーマもオンリーワン。ここにしかないものばかりですよというわけだ。ほとんどすべてのブランドを集めても、さらに"他にはない"を打ち出したい、いやブランドばかりだからこそ、"他とは違う"を訴えたいのだろう。
これだけの大規模な開発でさえ、お客を呼び止め、繋ぎとめておくためには"特別なオンリーワン"がどうしても必要というわけである。事ほど左様に買い手は貪欲にわがままになっている。

「発信を始めた彼女たち」

大体今の買い手の多くを占める女性たちは、男性軍が書類と会議に埋もれている間に、キャリアウーマンにしろ主婦にしろ、日々、テレビ、雑誌、クチコミから膨大な情報を受信しているのである。
そんな彼女たちが今求めているのは、もう受信ではない。発信することなのである。自己表現、さらに言うと、自己実現することなのだ。
ブランドを身にまとうことが、自己実現になる時代もあった。ブランドをミックスすること、コーディネーションがそうなることもあった。今や、ブランドで最も人気があるのは限定品、さらにはプレミアのような非売品である。
他にはない物に究極の価値を見出すのである。したがって手作り品も大人気である。自ら作るのも好き、買うのも好き、というわけである。各地のさまざまな手作り教室はどこも大盛況、プロとアマもかぎりなくボーダレスである。そして、次にむかうのはもちろんオーダー品である。ここ数年静かなブームであったのがここにきてさまざまなオーダー対応の店が続々と出てきている。

「買うから創るへ」

ファッションの世界だけではない。インテリア雑貨、テーブルウエアなども量産品の苦戦に比べ、オンリーワンの代表、作家物の人気は根強い。店主が目利きでなかなか良い作家物の器を集めた店など、全国からお客を集めているし、寡作で人気のある作家など展覧会の追っかけもでるという。
そしてこの分野でも自ら手作りするのが大流行だ。私の作った器に自らの料理をのせておもてなし、というのがおしゃれというわけである。大体、百貨店、量販店、専門店も器屋さんは皆、右肩下がりで青息吐息なのに、毎年1月に開催される東京ドームの「テーブルウエア・フェスティバル」は焼く1週間に30万人の来場者を集める大盛況ぶりである。その秘密はどうもその中心的な催事であるテーブルコーディネーションのコンテストにあるらしい。
彼女たちは自分たちの代表の作品を見に集まるのだ。そこでメーカーや問屋さんたち、プロによって発信されているものを見に行くのではなく、自分他の代表がそこで発信しているものを見に集まるのである。まさしく受信から発信である。
飲食店の場合も例外ではない。有名ないまどきの飲食店のチェーンなどその裏側まで、テレビなどで放映されてしまう。行ってみると、マニュアル化されたサービスの洪水。オンリーワンは程遠い。今、彼女達行ってみたい、友達を連れて行きたいのは、自分だけが知っている、看板もないような、だけどおいしくて居心地がいい、そんな店である。

「オンリーワンはビジネスに不向きか」

こうやって並べてみると、今求められているオンリーワンはシステム化はできない、スケールメリットはないと、ビジネスと両立させるのは至難の業である。むしろ相反する要素がほとんどなのだ。
まだ、結果は出ていないが、六本木ヒルズのとった、ブランドといえども他では手に入らないものを用意する、専門以外の店を出す、チェーン店といえどもたった1軒の店のように見せる、という答えもその一つだろう。
他にどんな答えをみつけられるのか、なかなか興味が尽きない。
自己実現意欲、発信能力の旺盛な"彼女"たちと店作りのプロたちの限りなき知恵比べ、楽しい勝負はまだ始まったばかりのようである。  <みたらい てるこ>



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