T-pot

ティーポット
“ダイナミックに本物”を―百貨店のブランドを考える <商店建築2004年1月号掲載>
.............................................................................................................................................................................................御手洗 照子


「“圧倒的な印象”を形づくる」

なかなか元気が出ない百貨店。各店から、さまざまな改革案が出されるが、今ひとつ迫力に欠ける気がしてならない。もう一度、さまざまな暮らしのツールの入った大きな箱としての百貨店を見直し、百貨店ブランドのブラッシュアップを考えたい。
まずは、百貨店の中の優等生、どの百貨店でも総じて好調な、地下食品売り場、いわゆるデパ地下の元気さから。一体、他の売り場とどのような違いがあるのだろうか。
もちろん、さまざまな要因があると思われるが、なんと言っても一つのフロアが一体となってかもし出すダイナミックな圧倒感。そして一つひとつのコマ割りを見ると、これが全部ちょっと他では手に入らない逸品ばかり、という遠目に映え、近くに寄ってもまたいい、いわば鳥の目、虫の目の両方に耐えられるということである。
これは案外難しい。特に、効率を求めて場所貸し的な売り場づくりが多くなると、フロアはともすると専門店の集合体のようになり、それぞれがバラバラに主張して、ショッピングモールと大差ないことになってしまう。百貨店にはこのフロア全体の一体感が持つ“圧倒的な印象”が欲しい。その“圧倒的な印象”を形づくるための一つの方法論が、業界で言う“平場”のダイナミックな活性化である。それはまた、顧客にとっては、買い回りのしやすい売り場でもある。そして、各フロアの平場でのMDの切り口、売り場のつくり方こそ、個性の見せどころであり、メッセージの出しどころである。  

「今の時代にふさわしい仕掛け」

最近、この平場改革での成功例がいくつか出てきている。ミッシー、ミセスを対象とした旅、スポーツ、くつろぎなどのテーマでくくったファッションの平場や紳士カジュアルをコーディネーションで見せた平場など。どちらもブランド、デザインはエージレスでサイズやディテールを工夫しているのがみそである。
見通しの良いボーダーレスな大きな売り場からは、どちらも“大人よもっとおしゃれに!”という売り手のメッセージがはっきりと伝わってくる。大人たちはそのメッセージによって潜在需要を十分喚起されたようである。こういう、大きなくくりではっきりしたメッセージを持ったフロアが全館串刺しで表現されてくると、さらに店としての迫力が増す。
それは、一時期、盛んに言われた情報発信というような瞬間的なものではなく、もっと根源的な、いわば、百貨店自体のブランドメーキングの一端となるメッセージである。
しかしながら、現状はというと大体フロアが上にいくほど、場所貸し的な安易な売り場が目立つ傾向にある。各店総じて、売り上げの悪いインテリア家庭用品の売り場などは、専門店ががんばっているだけに、思い切りの悪さが目立つし、レストラン街、屋上なども手付かずのところが多い。
屋上といえば、以前、非常に印象に残るできごとがあった。新宿、伊勢丹の屋上に、カルガモの親子がやってきたのである。連日ニュースで取り上げられ、そのカルガモの親子の報道は彼らが飛び立つまで続いた。百貨店の出来事が新聞の経済面や流通面ではなく、社会面をにぎわしたのである。自然を大切にし、環境に優しいという百貨店のイメージの波及として、これ以上のPR効果があるだろうか。
そして、何よりも、“本物の自然”と呼べる環境が都会の真ん中にあるという気持ちの良い意外性。都会もまた、大きな自然の中の一部なのだという感慨。屋上にどんなテーマパークをつくるより、自然を切り取ってそこに置くことの方が今の時代にふさわしい仕掛けである。百貨店の屋上がみなビオトープになることを想像しただけで、楽しくなる。いわば、屋上という一つのフロアがダイナミックにメッセージを発信するわけである。

「自分たちの価値観をはっきりと表現する」

各百貨店が自分たちをブランド化するために発するメッセージ。考えてみると、それは「自分たちの考える幸せというものはこういうことです。」と、自分たちの価値観を全館ではっきりと表現することである。それが、各百貨店の個性となる。ひたすらお金を持っていることが幸せなのか、クラスを感じさせる暮しが幸せなのか、何ごとにも最先端を行くことが幸せなのか。こだわりを持って暮しを楽しむことが幸せなのか、現世的な答えはいくつかあるのだろう。
現在の百貨店を見比べてみても、その答えのいかんに関わらず、はっきりと自分たちの答えを持っているところ、そして、その答えがわかりやすく表現されているところほど消費者に支持される、という結果が出ているようである。その答えを明快に表現するためのキーワードこそ、“ダイナミックに本物” を、である。

どの百貨店でも総じて好評な地下食品売り場

<みたらい てるこ>

 

Copyright (C) 2004 T-pot Co., Ltd. All right reserved.