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 見直される陶磁器デザイン <商店建築2004年4月号掲載>
.............................................................................................................................................................................................御手洗 照子
厳しさを増す工芸品の現状

最近、伝統的工芸品見直しの空気が強くなっている。イタリアに始まったスローフード運動は、スローライフの提唱となり、地産地消が見直され、環境に優しい道具としての伝統的工芸品がクローズアップされている。
経済産業省もハードがダメなら、ソフトというわけで、日本文化の見直しに力を入れているようだ。盛んに言われている観光立国としても、海外から人を呼ぶには、当然、日本独自の衣、食、住がなければならない。ここでも日本各地の地域に根ざした、暮らし、道具、その土地ならではの食べ物や産品が重要な要素になってくる。
しかしながら、伝統的という冠がつくにしろ、つかないにしろ、工芸品の現状というのは厳しい。

陶磁器産業の現状

ここ何年かの間に、かなり大きな変化を遂げた現代の住環境。そこで営まれる今の暮らしにふさわしい工芸品が多く作られているとは言い難く、日々の暮らしの中での役割も少なくなる一方である。
陶磁器の分野も例外ではない。かつては、日本を代表する伝統工芸品の一つであった陶磁器の大手メーカーも、主な取引先である百貨店の売り場は縮小傾向にあり、新たな方向を暗中模索している状態である。
地場の中小メーカーに至っては、さらに問題は深刻で、赤字を続けるくらいならと、廃業が相次ぐ産地も多い。
規模の大きな窯を持つ量産型のメーカーほど、廃業にいたるケースが多く、量的規模が失われると、土や釉薬などの材料が値上がりし、更にリーズナブルな価格のものが生まれにくくなるという悪循環も生じる。
このような状況の中では、後継者たちも育ちにくく、さまざまな技術の伝承も心もとない事態とならざるを得ない。
陶磁器産業の不振は、いわゆるマーケットの状況が生産者側にダイレクトに伝わりにくかったことが、一つの原因とも考えられる。

新しい陶磁器デザインの胎動

近年、この世界にも少し動きが出てきた。ボーダーレスになった食の世界や、活発な動きのあるインテリアの世界から、陶磁器による新しいタイプの器やデザインが強く求められ始めたのである。
ところが、そういう流れに連動して、培われた技術にふさわしい創造性を持った新しい商品を生み出す力が産地には弱いのである。
昭和の高度成長期に数々の名品を生み出した、森正洋を迎えた白山陶器や柳宗理、小松誠らのデザインを具現化した瀬戸のセラミックジャパンのような、元気なメーカーがなかなか現れない。大手メーカーも内部に抱えているデザイナーは、ほとんど絵付けのためのグラフィック的処理を行う人材で、このデザイン力が最も必要とされる時代に対応し切れていない。
また、美術学校の陶芸科の学生たちは、作家活動を目指していて、陶磁器デザイナー志望は少なく、プロダクトのデザイナーが入っていくにしても、素材の特性が強いことなどから、なかなか難しい。
一番適切と思われるのは、プロダクトデザイナーと素材とメーカーの特色を知り尽くした、インハウスのデザイナーとのコラボレートである。その上手なマッチングには、両者の得手不得手を知るコーディネーターの存在も必要かもしれない。
しかし、いまだに大きな流れとはなっていないが、ここにきて少しずつ新しい陶磁器デザインのための胎動が目立ち始めている。
各洋陶メーカーもいよいよ絵付けから脱して、形に入り始めたのである。無印良品などの新しい業態が、デザインのしっかりとした定番商品の開発、製作に取り組み始めている。また、多治見陶磁器意匠研究所など、産地の専門学校が専門度の高い優れた陶磁器デザイナーを育てている。
さらに、デザインの良い工芸品のみを扱い、限られた小売店にのみ商材を提供する新しいタイプの流通が成功していることなどが挙げられる。
ここにきて、マーケットはデザインの優れた陶磁器を強く求めている。
デザインを理解する流通形態が出始めている今、優れた人材と産地に残された技術、これらの事象をうまくリンクさせることで、世界に誇れる陶磁器デザインがもう一度、この国から多く発信されるに違いないと確信している。
<みたらい・てるこ>

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